東京高等裁判所 昭和28年(ネ)994号 判決
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、仮りに本件追加契約の趣旨が被控訴人主張のとおりであるとすれば、同契約は地代家賃統制令において、地主は公定価格による地代の外は如何なる名義によるも何等の金銭の受領をも禁止している同令第三条、第十二条又は第十二条の二の規定に違反し、無効であると述べ、被控訴代理人において、右被控訴人の主張のように追加契約が無効であることは争うと述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人が昭和二十三年十一月一日控訴人に対し、その所有にかかる東京都文京区戸崎町十二番地の二宅地四百三十坪八合七勺の内被控訴人主張の部分五十五坪二合を(以下本件土地と称す)、普通建物所有の目的、賃料一ケ月九百四十八円、期間二十年の約で賃貸した事実、その後昭和二十五年十二月十九日その追加契約として、若し控訴人が右賃貸借による借地権(以下本件借地権と称す)を譲渡した場合に関し、控訴人から被控訴人にその譲渡代金の半額を支払うべきことを約した事実並びに控訴人が、昭和二十六年十月五日訴外金子東男に、右借地権を本件地上の控訴人所有家屋木造瓦葺平家建工場兼住宅建坪二十五坪一棟と共に金七十万円で売渡した事実は当事者間に争なく、被控訴人は右追加契約は、被控訴人がいやしくも第三者に本件借地権を譲渡すれば、譲渡代金半額を支払うべき趣旨であると主張するに対し、控訴人は右趣旨を争い、それは控訴人が地上の建物を撤去し、更地として本件借地権を第三者に譲渡した場合に譲渡代金半額を支払うべき約旨であると陳述するので、右追加契約の趣旨につき審按するに、成立に争なき甲第一、第二号証、原審証人矢野修一郎、同池田一雄の各証言(後記措信できない部分を除く)、原審における被控訴人本人尋問及び控訴人本人尋問(後記借信できない部分を除く)の各結果を綜合してみると、控訴人は前示の如く本件土地を賃借した後、初めに考えていた地上の家屋に居住することをやめ、むしろ同家屋を東京都内大森の方に移築するか、他に売却しようと考えたところ、それらの場合に被控訴人の方で賃貸借の継続を認めて呉れないような懸念があつたのと、本件賃貸借については被控訴人と控訴人間に多少の紛争をおこしていた関係もあり、一方でまた本件賃貸借契約公正証書(甲第一号証)には「賃借権を譲渡せざるべきこと」とか、「賃借物上の建物を売却譲渡せんとするときは予め賃貸人の承諾を受くべきこと」などいう条項があつたので、控訴人の方では、被控訴人の承諾なく地上建物を売却できるとか、そのような場合賃貸借の継続を認めて貰うこと等を被控訴人と約束し、予め紛議を防止する意味で前示追加契約をしたものであつて、その契約書(甲第二号証)の条項四に「借地権者は右特定条件に対し借地権を第三者に売却したる場合はこの売却代金の半額を地主へ提供することを特約承認す」とあるのは、同条項一ないし三にいう地上建物の撤去又は売却譲渡の承認、賃借権の譲渡の承認、或は地上建物撤去の場合の借地権承認の代償という如き意味で、地上建物撤去の後とか地上建物と共にしたとかの場合を区別せず、借地権譲渡のときはその代価の半額を地主たる被控訴人に支払うことを約した趣旨であると、認めることができる。以上の事実に照らし、前記証人矢野、池田の各証言及び控訴人の供述中、右認定に反する部分は信を措き難い。
ところが控訴人は、右趣旨の契約は、貸主が如何なる名義があつても、停止又は認可の統制額を超える地代や権利金を受領してはならないという地代家賃統制令の禁止規定に反し、無効であると抗争するので按ずるに、地代家賃統制令の右のような禁止規定(同令第三条、第十二条、第十二条の二)は、直接貸主と借主との間のことを定めたものであつて、この禁止規定を潛ぐるために、中間に第三者を入れて、禁止されている金員を実際は貸主が借主から受領することとなる趣旨の契約を、その第三者と貸主との間に締結するのは、強行規定に反し無効であると謂えるであろうが、本件追加契約は、右禁止規定が直接適用せらるべき新借主(前示訴外金子東助)と貸主(被控訴人)との間の賃貸借からみれば、第三者と貸主との間の契約であり、これが右のように実質において強行規定を潛脱するためになされた無効のものであると認めるに足りるような証拠は何もないから、控訴人の右主張は採用できない。
してみれば控訴人は、本件借地権即ち右のように譲渡可能の財産権の、売却代金の半額を被控訴人に支払うべき義務があるということになるが、当事者間に争なき本件借地権附の地上家屋の売買代金七十万円のうち、売却当時たる昭和二十六年十月当時における本件借地権の価格が坪当り三千円以上であつたという被控訴人の主張は控訴人の争うところで、この事実を認めるに足りる証拠がない。しかし原審鑑定人駒井軍一の鑑定の結果によると、その価額は坪当り二千四百円、本件土地五十五坪二合につき十三万二千四百八十円であることが認められるから、別段反証なき本件においては、前記売却代金七十万円のうち、右金額が本件借地権の売却代金であつたと認定する。
よつて右金額の半額に当る六万六千二百四十円と、これに対する催告期日たること当事者間に争なき昭和二十六年十一月二十日の後である同年十二月一日以降完済に至るまでの年五分の法定利率による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求部分を認容した原判決は相当であつて、本件控訴はその理由なきにより、民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用し、主文の如く判決する。
(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)